BCP(Business Continuity Plan)とは?
ビジネス・コンティニュイティ・プランの略であり、日本語では「業務継続計画」と表されます。BCPは業種を問わず、自然災害や感染症など不測の事態があった場合でも、「重要な事業を中断させない」「中断しても可能な限り早い時間で復旧させる」ための方針、体制、手順等を示した計画のことを業務継続計画(BCP)と言います。
義務化の対象となる事業所は?
「全ての介護サービス事業者」です。つまり、訪問介護や訪問看護、通所介護(デイサービス)、共同生活介護(グループホーム)…はもちろんのこと、福祉用具貸与販売や居宅介護支援に至るまでのあらゆる事業所が対象となります。感染症や災害が発生した場合であっても、必要な介護サービスが継続的に提供できる体制を構築する観点から、全ての介護サービス事業者を対象に、業務継続に向けた計画等の策定、研修の実施、訓練の実施等を義務化されました。
BCP義務化の背景…
災害が発生した場合、一般に「建物設備の損壊」「社会インフラの停止」「災害時対応業務の発生による人手不足」などにより、利用者様へのサービス提供が困難になると考えられています。サービス提供が困難になることは利用者の生活・健康・生命の支障に直結します。この様な理由から、他の業種よりも介護施設等はサービス提供の維持・継続の必要性が高く、BCP 作成など災害発生時の対応について準備することが求められました。
「自然災害」と「感染症」それぞれへの計画が必要
自然災害では、発災直後から数日間の対応が重要です。浸水や建物の被害から人命を守り、一時的なライフラインの途絶を乗り切れるだけの備えが必要です。この数日を乗り越えれば、着実に復旧が進むのが一般的です。一方で感染症では、長期的な対応が必要となります。感染対策をしながらのケア、感染や濃厚接触で休業する職員の代替要員の確保・心理的なケアも求められることになります。
【平常時の対応】具体的には建物や設備の安全対策、電気水道などのライフラインが停止した場合の対策、必要品の備蓄など
建物・設備の安全対策 | 事業所の耐震補強はもちろんのこと、ご利用者様の自宅でも消火器などの設備の収納場所を確認しておく。 |
ライフライン停止への対策 | 電気が止まった場合には、乾電池や手動で稼働するものを使う。また自家発電機がある場合は稼働させる設備の優先順位を考えておく。 都市ガスが止まった場合には復旧まで1ヶ月程度かかることもあります。調理用にはカセットコンロ、冬場であれば、毛布や使い捨てカイロを準備しておく必要があります。 水道が止まった場合には飲料水と生活用水が必要です。飲料水は消費期限までに買い替えるなど定期的に確認し、生活用水は給水車から給水を受けられるよう、ポリタンクなど十分な大きさの器を準備しておくことも重要です。 |
通信が途絶えた場合の対策 | サービス提供中に被災した場合に備え、緊急連絡先は、複数の連絡先や連絡手段(固定電話、携帯電話、メール等)を把握しておく。 |
システムが停止した場合の対策 | パソコンやサーバーは定期的にバックアップを取る。 |
衛生面の対策 | 排泄物や使用済みのオムツなどを衛生面に配慮し、一時的に保管する場所を決めておく。 |
必需品の備蓄 | 行政支援開始の目安である被災後 3 日目まで、自力で業務継続するため備蓄を行う。必要なものはリスト化し、賞味期限など定期的に確認する。 |
関係各所との連携 | 避難先においてサービスを提供することも想定されるため、地域の避難方法や避難所に関する情報に留意し、地域の関係機関(行政、自治会、職能・事業所団体等)と良好な関係を作る。 |
【緊急時の対応】どのようなときにBCPを発動させるか、またその対応体制
自然災害が発生した際は、ご利用者様や訪問中、移動中のスタッフの安全のため迅速な対応をしなければなりません。そのためにはBCPを発動する基準を決めておく必要があります。地震の場合は、対象地域や震度を基準に、水害の場合は警報や注意報を基準にしましょう。安否確認の方法や連絡先はまとめてスタッフが携帯しておくと移動中などの状況でも速やかに対応できます。ご利用者様の安否確認もスムーズに行うため、担当者を決め安否確認シートを準備しておきましょう。災害時にはインフラの停止や職員不足から業務量が増大することが考えられます。ご利用者様の生命・健康を維持するためには食事・排泄などが特に重要業務になりますが、職員数によっては手順を見直したり代替方法が必要なこともあります。サービスを「通常通り継続する」「頻度を少なくする」「一旦中止する」など、居宅介護支援事業所や地域の関係機関と連携し、可能な限り早くサービス提供を始めることが大切です。
【自然災害BCPを策定する際の主要なポイント】
・各担当者をあらかじめ決めておくこと
・連絡先をあらかじめ整理しておくこと
・必要な物資を整理、準備しておくこと
・上記を組織で共有すること
・定期的に見直し、研修・訓練を行うこと
【平常対応】具体的には体制の構築と整備、感染症防止に向けた取組みの実施、備蓄品の確保など
体制構築 | 誰が、何をするかを決めておき、関係者の連絡先、連絡フローの整理を行う。 |
感染防止策 | 感染症に関する最新情報の収集、手指消毒・換気等の基本的な対策、体調管理を行う。事業所に出入りした人の記録も取っておく。 |
防護具、消毒液等備蓄品の確保 | 感染疑いの方の対応等で使用量が増加することを考慮し、数日分は確保しておく。 |
研修・訓練の実施 | BCPの内容を共有し、年1回以上の研修や訓練を行う。 |
検証・見直し | 最新の動向や訓練等で洗い出された課題を BCP に反映させる。平常対応は、感染症の拡大を防ぐための基盤となる取り組みです。 |
【初動対応】感染症が発生した時にまずどのような行動を取るか
感染症が発生した際の初動対応は、その後の展開を大きく左右する重要なフェーズです。居宅介護支援事業所等と連携し、サービスの必要性を再度検討の上、感染防止策を徹底した上でサービスの提供を継続する。担当スタッフをわけたり、最後に訪問するなど感染には細心の注意を払う。連絡した医療機関、受診・相談センターの指示に従い、医療機関のへ受診等を行う。
・管理者等への報告
・地域で身近な医療機関、受診・相談センターへ連絡
・事業所内での情報共有
・事業所のある市町村を管轄する自治体に報告
・居宅介護支援事業所へ報告
・ご家族様へ報告感染疑い者への対応
【感染症BCP作成のポイント】
・事業所内を含めた関係者との情報共有のため、連絡先や連絡フローを整理すること
・全体の意思決定者を決め、各業務の担当者を決めることで、役割分担・判断ができる体制を構築すること
・感染者発生時の対応を整理すること
・可能な限りの職員の確保と、関係団体や都道府県等、応援依頼できる場所を把握すること
・職員が不足した場合にも可能な限り通常通りのサービス提供できるよう業務の優先順位を整理すること
・BCPは関係者への周知、研修を徹底し最新の知見等を踏まえ、定期的に見直すこと
感染症BCPと自然災害BCPは、それぞれ異なるリスクに対応するための計画です。
自然災害 | 感染症 | |
被害の対象 | 地震、台風などの自然災害による設備やインフラの被害 | 感染症の流行による人への被害 |
被害の範囲 | 突発的に局所的に発生する | 海外で発生した場合には日本で発生するまで期間があり、被害は全世界に及ぶ |
被害の期間 | 数日から数週間、長くても数ヶ月に限られることが多い | 数週間から数ヶ月、場合によっては数年にわたって続くことがある |
被害の規模 | 制御不可能 | 感染防止策により左右される |
以上のことから感染症BCPにおける自然災害BCPとの違いは以下の3つです。
1. 正確な情報を入手し、都度判断する
2. サービスを継続するにはヒトをやりくりする
3. 感染防止策を徹底する